子どもの知能を伸ばすドーパミンを出す「ワクワクドキドキ」

「子どもは親同士が会話をしていたら、意味や内容はわからなくても聞いているものです。お父さんが観ているテレビを観てもいるし、お母さんがキッチンで料理している音だって聞いている。つまり、家の中の日々の出来事からさえ、子どもというのはたくさんの刺激を受けているのです。そして、それによって脳の中ではドーパミンを出す神経回路が次々とつくられていくのです。」(『5歳までにやっておきたい本当にかしこい脳の育て方』茂木健一郎著・日本実業出版社・35頁)「ご両親が本をたくさん読んだり、いろんなニュースに敏感だったりする勉強熱心な家庭では、子どもも「学びたい」という欲求を強く持ち、またご両親が外出を好み積極的にいろいろなところに出かけていく家庭では、好奇心や探究心の強い子どもに育つのです。そこに家庭の経済格差は関係ありません。」(同書38頁)「乳幼児は両親が思っている以上に親の顔をよく観察しているもので、アメリカの心理学者アンドルー・N・メルツォフは、生後数週間の新生児であっても、すでに大人の表情をまねするという「新生児模倣」現象を証明・報告しています。昔から「子どもは親の背中を見て育つ」といいますが、いうなれば、子は親の心を感じて育つのです。親の笑顔やポジティブな心を感じると、子どもは感情表現が豊かになり、ワクワクドキドキしやすくなるので、ドーパミンも出やすくなります。」「両親がフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを意識するだけで、子どもに笑顔がどんどん増えていきます。」(同書159~160頁)
まずは、ごくごく身近な日常生活を興味深く丁寧に見つめていくことが大切なのですね。

〈ノーベル物理学賞受賞・真鍋淑郎さん「好奇心持って」〉

今の時期の毎年恒例の話題であるノーベル賞に、昨年、日本人学者の真鍋(まなべ)淑郎(しゆくろう)さんが、環境問題・地球温暖化の分析に役立つ重要な研究を評価され物理学賞を受賞されました。まさに快挙ですが、真鍋さんは授賞式後の記者取材で、「自分が本当に得意なことをやれば、研究は楽しくてやめられなくなる。」と熱く語られました。20代で研究渡米されたことが「人生で最も重要な決断だった」そうです。(岐阜新聞2021年12月8日記事) 日本では専門的にはなかなか自由に好きな研究に打ち込む環境が整ってなくてくすぶっていたが、チャンスに恵まれて外国へ留学してからやっと初めて芽を出して超一流の研究者になる例をよく聞きます。
遺伝子学・生命科学の権威・村上和雄氏(故人)も、同様の例のようですし、近似の主張をされています。
「いままで脳の働きは先天的に決められていると考えられていましたが、そうではありません。眠っている遺伝子をONにすれば誰でも天才なのです。なぜなら、人間のゲノムは天才も凡才も99.5%以上は同じにできているからです。しかも環境変化や心の持ち方でも遺伝子ONは可能です。」(『コロナの暗号 人間はどこまで生存可能か?』村上和雄著・幻冬舎・2021 143頁)
これらの方々の言われるように、偉業を成し遂げる人とは、特別な才能を秘めている「一部の特別な人」というよりも、幼少のころから自分の好きなことに十分時間をかけて無理強いすることなくとことん打ち込ませてもらって、遺伝子をONにする環境を整えられた人、ということなのでしょうね。

子どもを読書好きにするには? ~~自由に本を選ばせて~~

子どもたちには絵本を与えることから始まって、ゆくゆくは活字の多い本を好きになって欲しいと願うものですが、親の無理強いでも子どもは本を好きになってはくれませんよね。児童文学評論家・赤木かん子さんは、「子どもはもともと本が好き。大人が本を嫌いにさせてしまうんです。」「子どもが喜ぶ本のどこがいけないのでしょうか。アンパンマンでも戦隊ものでもいい。まず書店に行って、子どもに好きな本を選ばせて、親は文句を言ってはいけません。それが出発点です。」とおっしゃいます。絵や写真・漫画入りの本「リアル系」も、活字ばかりの「空想系」もどちらにも偏重しないことが良いそうです。「書店で子どもが買えるならば、問題のある本というのはないのですから。」「大人は子どもに広く選択肢を与え自由に読書をさせる」のが、「本好き」を育てる基本のようです。
(岐阜新聞2014年10月3日記事)

教育の専門家が著書で紹介する子ども向けの本の選び方には、5種類ほどの方法があります。
①自分(親)の想い出の本・子にすすめたい本
②地域・地元の公立図書館・公民館・コミセンなどに置かれている「幼児向け」コーナーの本
③書店の幼児書コーナーで子どもに選ばせる
④すでに「定評」のある(絵)本・PTA新聞などで紹介されている本
⑤幼稚園(の先生)に聞いてみる

いずれにしても、親子一緒に楽しむこと、またさらに子どもがどういうところにどのように面白がっているか・感動しているか、その子ならではの特徴・個性を記録していき、育児日誌までできると良いですよね。長じて後、絶好の想い出や子への贈り物になりますよ。

<教育の名言>

母の日にちなみ2021年5月9日の岐阜新聞コラム「分水嶺」に次の文が載っていました。「ドイツの文豪ゲーテの母カタリーナは、幼少のゲーテが眠りにつく前に物語をよく読み聞かせたという。話が盛り上がってくると、いつも決まってこう言った。「続きはまた明日」▼どんなラストが待っているのか。翌日にお預けされたことで幼いゲーテはさまざまな想像を巡らせたことだろう。世界的な文豪の発想力を育んだ母も偉大である」
「この親にしてこの子あり」とよく言いますが、絶好・絶妙の子育て法ですよね。想像(力)を働かせることには老少問わず良い面(プラス面)もあれば悪い面(マイナス面)もあります。事故・リスク防止のためのK・Y・T(危険予知トレーニング)も大切ですが、心配性になりすぎないよう、楽しく楽観的に想像力をはたらかせましょう。

《教育の名言「耳で賢くなる」》

本欄の前回までの数回は、乳幼児期での保護者・保育者のちょっとした日々の心がけ(声かけ)の違いだけで生涯にわたる精神的成長に大きな差が生まれる、という研究報告でしたが、外山(とやま)滋比古(しげひこ)文学博士も同様の主張をされています。

「耳で賢くなる方のしつけ・教育は、今の日本ではほとんどなされていなくて、視覚の文字を中心にした記憶によって知能を発達させようとしてきたが、視聴覚の双方で知覚を高めていけば、知的能力だけでなく、情操的にもすぐれた能力の子どもが育つ。賢いことを「聡明(そうめい)」というが、「聡」つまり耳の賢さが「明」つまり目の賢さより先行している。昔の人の知恵である。」「文字を知らない幼児期にこそ、聞く力を育てる好機である。大人がまずそう自覚する必要がある。」(『幼児教育でいちばん大切なこと 聞く力を育てる』外山(とやま)滋比古(しげひこ)著・筑摩書房2012・P178~179)(英文学者・文学博士・お茶の水女子大学名誉教授・元同大学附属幼稚園長)
このための具体的な方法は、それほど奇抜・難解なことではありません。テレビ・スマホ・パソコン・タブレットの画面・音声からいったんはなれ、「ゆっくり、くりかえし、はっきり話す」ゆったりとした「抑揚をつけてはなす」「なるべくほほえみをたたえて話しかける」(P33~34)「とりとめのないおしゃべりは、おそらく人間にとってもっとも楽しいことの一つであろう。」(P56)ともおっしゃっています。