<挫折・失敗への対応>

前々回まで4回ほど論述していた「非認知能力」の話に戻りましょう。

大人も子どもも、日々の生活の中で、失敗も挫折も数多く体験します。思った通りにうまくいかず悔しい思いをしたり、落ち込んだり、という経験は誰しもありますが、そんな時、周囲の人的環境が恵まれていると、立ち直り(レジリエンス)が早くたやすいものです。

「子どもの挫折は、立ち直る力を育てるチャンス

子どもが試験に落ちたり試合で負けたりと、思った結果が得られず挫折したときの対応はとても大事です。子どもの気持ちに添って対応することで、「立ち直る力」が育つきっかけになります。

そっとしておいてほしい子には、むやみに話しかけないほうがいいかもしれません。それでも、見守ることは必要です。

くやしい気持ちを吐き出したい子なら、共感しながら聞いてあげてください。結果はどうあれ、がんばったところをほめることが大切です。努力が足りなかったなどと責めると立ち直りにくくなります。親自身の挫折体験を話してあげるのもいいかもしれません。子どもにとって、挫折経験は自分を見つめ直して成長する機会でもあります。」(『ずるい子育て』親野智可等氏著・ダイヤモンド社・2024・P222~223)

 

 

 

 

 

 

これを読むと、子どもの性格をふまえた対応が必要だということがわかりますね。

同様に、失敗や間違いにおびえずのびのび・大らかにチャレンジすることの大切さを説いている絵本があります。

「みんなどしどし手をあげて まちがった意見を言おうじゃないか まちがった答えを言おうじゃないか」(『教室はまちがうところだ』蒔田晋治著・子どもの未来社・2004・P2)

学校・幼稚園では、授業でも生活上でも、毎日さまざまな課題に直面し、子どもたちは否が応でもチャレンジしていかなければなりません。そんなときも、この絵本の真の意図を思い出しながら取り組むと、気が楽になって思い詰めすぎずに取り組めますよ。

<2024パリ・オリンピックが終わって>

コロナ禍で1年延期されて「無観客」で開催された東京オリンピックとは打って変わって、大観衆を受け入れての従来の形のオリンピックがパリで開催されました。夜中過ぎにテレビ中継・メダルラッシュに夢中になり、寝不足になった方も多かったことでしょう。

私はいつも、メダリスト他の競技後のインタビューのことばに注目しています。理由は、栄冠を勝ち取った選手も頂点にたどり着かなかった選手も、ほとんどが、前回・前々回のオリンピックやその後のさまざまな人生上の辛い経験・失敗から何度も必死に這い上がって努力を積み重ね、すべてをやりつくした後の、身の回りの多くの方々へのすがすがしい感謝の想いが飾りなく噴き出していて、私自身励まされるからです。

いくつかをご紹介しましょう。

女子陸上やり投げ・金メダリスト・北口榛花(はるか)選手

「何が味方で何が敵なのか、わからなくて悩んだ時期があった。この場(オリンピック競技場)に立てることが無理か、と思うほど辛いこともあった。」

女子レスリング53キロ級・金メダリスト・藤波朱里選手

「みんなで勝ち取った金メダルだと思います。」

男子レスリングフリースタイル57キロ級・金メダリスト・樋口黎選手

「自分を信じ支えてくれたコーチ・仲間・家族・親族他のおかげです。」

男子陸上やり投げ・予選敗退・ディ―ン元気選手

インタヴュアーから「この雰囲気、どうですか?」と訊かれて、

「最高ですね!!!」(^‗^)

 

「スポーツマンシップのあらわれ」

1932年ロサンゼルスオリンピックで、400ⅿハードルのバーレー選手(イギリス)は、開会式の翌日に予選が控えていたので、開会式は休むつもりでした。しかし、彼のライバル・テーラー選手(アメリカ)が開会式に出席すると聞き、同じ条件で試合をしなければ、フェアプレーでないと考え、開会式に出席すると決めました。試合の結果はテーラー選手3位、バーレー選手4位でしたが、握手をしたバーレー選手の顔は、明るく輝いていたそうです。それは、勝ち負けだけが競技のすべてではない、ということを確信したからでした。(『少年少女学習百科大事典19・国語体育家庭』1968・学研・P153のコラム要約)

現今のプロスポーツ選手も参加できるオリンピックと違って、アマチュアリズムであった時代、上の文章を少年期に読み、オリンピックが大好きになりましたが、今のオリンピックでは、メダリストには多額の報奨金が授与されたり、コマーシャリズム(商業主義)や勝利主義が加熱化するあまり、ドーピング問題も頻発し、スポーツのさわやかさが崩れる面も出てきています。

自国の期待を一身に担って選手が参加するので、獲得するメダル数に関心が集中しがちですが、同じ競技に参加することにより国と国が新たな親交・友情をより深めることの方が、私には意義深く思えます。

<思いやりを育てるには 子どもに親切にする>

「非認知能力」のひとつの柱に、円滑な人間関係を結ぶ力(コミュニケーション力)というのがありましたが、相手・仲間を尊重し思いやる心が育つには、やはり幼少児期からの育つ環境の影響は大きいでしょう。

「お子さんが何かに困ったり失敗したりしたときは、「なぜできないの?」「ちゃんとしなさい!」と叱っていませんか?

他人が困っているときに、「ダメじゃないか!」「しっかりしろ!」とは言いませんよね。我が子にも同じように黙って親切にしてあげまよう。子どもは表面には出さなくても、親に深く感謝しています。親切にされてうれしかった経験があれば、自分も親切にしようと思いやるものです。」(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)氏著・ダイヤモンド社2024・207頁)

「子どもに親切にしましょう。」と言われると、類似の姿勢である「甘えさせること」「甘やかすこと」とはどう関わるのか? どう違うのか? などという疑問が出てきます。子どもをゆったりと穏やかで懐(ふところ)深い愛情で包んで見守ることの大切さは、本欄の最初の頃からずっと主テーマとして述べてきましたが、幼いときほど思いっきり甘えさせることは大切ですが、甘やかすこととははっきり違いがあります。甘やかすこととは、子どもが自分でできること・すべきこと・やりたいことも、何らかの親の都合・自分勝手な理由で親が先んじてやってしまうことです。

子が「自分でやりたい」と言ったりしたときは、一歩引いて、まちがえても、失敗しそうになっても、おおらかに見守るゆとりを持ちたいものですね。

<家庭での安心・安全>

前回の本欄で、「非認知能力」を育てるためには、子どもが自分から興味関心をもったものに没頭させることが大切だ、という話を述べました。

「親力(おやぢから)アドバイザー」は、続けて次のようにおっしゃいます。

「そしてさらに大事なのは、そのような体験をさせる以前に、お子さんが毎日安心・安全な家庭環境で過ごせているかどうかということです。例えば、ご両親が激しい喧嘩ばかりしている家庭では、子どもは安心・安全を感じられません。なぜなら子どもというのは誰かに育ててもらわないと生きられないので、ご両親の仲のよさは、自分の生活や、ひいては命に直結するからです。そのような不安な状況に置かれていたら、非認知能力をのびのびと伸ばしていくことは難しいと言わざるを得ません。

心安らぐ環境があってはじめて、子どもは安心して自分の興味関心に従って行動することができます。子どもを伸ばそうとする前に、家庭が子どもにとって安心・安全な環境になっているか、振り返ってみてはいかがでしょう?」(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)氏著・ダイヤモンド社・2024)

まったくその通りですよね。私自身も、幼少のころ両親が何かの問題で言い争いになっていた時に、とても不安で嫌な気持ちになった記憶があります。ごくごくたまにあった、くらいの経験なので、ネガティブな人生観・社会観・家庭観を持つまでにはなりませんでしたが、こうした不安な経験は無いかできるだけ少ないに越したことはありませんよね。

もっとも、夫婦といえどもそれぞれ好みも考え方も感性も違った別々の人格なので、共同生活を長く続けていって「鴛鴦(おしどり)夫婦」になっていくためには、学び合い・尊重・尊敬し合い・協力し合いが必要ですよね。

<非認知能力を幼児期・児童期に育てるには?>

子どもたちが将来青年・成人となり社会の中で然るべき位置について働いていくために、意欲や意志、社会性・協力性、自分の頭で考え発想・決定する力・創造性・オリジナリティなどの「非認知能力」が大切なことは分かりますが、幼少期からどのように子どもを見つめ、接し、はたらきかけていったら良いでしょうか?

いくつかの最近の関連の専門書にあたってみると、まずは皆さん口をそろえて、次のように述べられます。

「子どもが好きなことを思う存分させる」「夢中になること・没頭できるものを見つけ、トコトン熱中させること」が大切です、と。(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)著・ダイヤモンド社2024)

また、教育方法論の専門家・中山芳一氏は、「内田伸子氏を中心としたお茶の水女子大学チームの研究(2014)に、20代の社会人の子どもを持つ保護者1000人以上を対象とした興味深い調査があります。我が子が幼児期の頃に「思いっきり遊ばせてきた」「遊びでは自発性を大切にしてきた」「好きなことに集中して取り組ませた」と回答した保護者の方が、子どもを(認知能力の高さが求められる)難関大学へ合格(偏差値68以上)させている率が明らかに高くなっているのです。」「社会情動的スキル(非認知能力のことです)は認知的スキル(認知能力)との間に相互作用的な関係がある」と述べています。(『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』東京書籍2018)

親の夢・希望・価値観を決して一方的に押しつけず、子どもの興味・自発性を尊重することも大切のようですね。