【教育の名言】雑談はボディ・ランゲージも大切に!

前回までの本欄で、乳幼児期の子どもと人間味豊かなことばをより多くやりとりすることが、子どもの知能発達をより育む、という研究結果を述べましたが、ことばのやりとりに劣らず、身体全体でコミュニケーションすることの大切さも感じていました。最近の新聞記事ではっとそのことを思い出させたものがありました。浜野ちひろさんは若いころ恋人にDVを受けたことで研究の道に進み、研究テーマとして動物性愛者(ズー)と接し彼らを観察するうちに、「顔色を読むとか目線のやりとりとか、人間同士の関係でも言葉だけに頼らない方が良いのではないでしょうか」(岐阜新聞2020年1月5日・新著『聖なるズー』浜野ちひろ著の紹介)とおっしゃっています。
以前の本欄でも書きましたが、仏教では、愛情表現・意志疎通の大切な方法として、
①心施(しんせ)(他者や他の存在に対する思いやりの心)
②身施(しんせ)(身体を動かして他者に尽くす行為)
③眼施(げんせ)(優しいまなざし)
④言施(ごんせ)(思いやりのこもったあたたかい言葉をかける)
⑤和顔施(わげんせ)(柔和(にゆうわ)な笑顔)
⑥牀座施(しようざせ)(電車などで自分の席をゆずる)
⑦房舎施(ぼうしやせ)(わが家を一夜の宿に貸す) (「無財(むざい)の七施(しちせ)」)
と説かれています。
この中で②③⑤⑥は、いわゆる「ボディ・ランゲージ」「表情」「顔つき」「無言の圧力」「目は口ほどにものを言う」「スキンシップ」といったコミュニケーションですね。メールより、直接会って話した方が、気持ち・微妙なニュアンス・真意・本意がより深く正確に伝わるということがありますよね。

<ことばの教育>

【教育の名言】前向きの声かけが、子どもの知能を育む

前回紹介しました教育社会学者ダナ・サスキンド氏は、「テレビ・スマホ機の一方的なことばではなく、人間的・応答的なことばを乳幼児にできるだけ多くかけてあげることが、子どもの知能発達に唯一の大きな影響を与える。」と主張されます(前回の本欄)が、「ことばの内容・質も数に劣らず重要だ。」とおっしゃいます。
《できる限り少なくしたいことばの種》
命令語・禁止語・人格を否定する語
例「あんたはだめねえ。」「何やらしてもダメな子ね」「間違ってる!」
《より多く子どもに投げかけたいことばの種》
認めることば・褒めることば・(親子ともに)面白く感じることば(決して心にもないお世辞・おちゃらけではなく)
例「よくできたね。」「がんばったね。」「よく○○ができるようになったね。」「よし!いいぞ!」「その通り。」「うまくいったぞ!」(間違ったときは)「う~ん、残念だが、ちょっと違うなあ。」(人格を否定せず、すべきでない行動を正す)
例えばおもちゃの片づけを学ばせたいときの声かけは、2種あると言います。
①「おもちゃを片づけて。今すぐ。」
②「遊び終わったね。さあ、おもちゃをどうすればいいかな?」
①は、そうしなければならない、「上から」の命令です。何も尋ねていません。②は、芽を出しつつある自律性を後押ししています。これが子どもの自己制御や実行機能に及ぼす効果は大きい、と言われます。(前掲書110頁)
家庭教育は独自的・独創的(オリジナル)なものなので、あくまで各家庭でこうした主張の真意をくみ、保護者・保育者自身の言葉で語りかけていくことが大事なのだと思います。

〈ことば育て〉

前回までの本欄で、10回ほど乳幼児のこころ育てに関わる代表的・典型的な課題について、対応策の基本的な方向性を探ってきました。前にも述べたとおり、こころ(情動性・感受性・意志)の育成の問題は、知性(ことばの獲得・考える力・探究心)と決して別ものではなく、生活環境の中で社会的な影響を受けながら同時進行的に育っていく、と考えた方がいいと思います。今回からは、生涯続いて発達・学習を進めていくことになる「ことば」の習得・発達(広い意味での知性の発達)について考えてみましょう。

【教育の名言】楽しい雑談が子どもの知能を育む ~「3000万語の格差」研究~
3年ほど前に私は大変衝撃的な教育研究書に出会いました。それは、アメリカで二人の教育研究者(トッド・リズリー氏とベティ・ハート氏)が、多様な社会経済レベル(家族の学歴・職業・収入など)の42家族の子どもの身辺を、生後3年間実に詳細・誠実に追跡観察し(1982年ころから)、さらに3年間かけてそのデータを精力的に分析し分かったことの報告書です。その要点を述べますと、3~4年間に、低階層の子どもたちと高階層の子どもたちがそれぞれの家族や保育者から聞いたことばの数の差が、総計3000万語あったということが分かり、この影響でその後の子どもの学ぶ能力とその成果に大きな差ができてくることも判明したそうです。(『3000万語の格差 ~赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ~』ダナ・サスキンド著・掛札逸美訳・明石書店・2018・P34~43)
3年(ほど)で3000万語ということは、ざっと計算すると一日で3万語、1時間で約700語となり(1日で起きている時間を14時間と考えました)、あらためて驚かされる数字ですが、この研究は決してでっちあげやはったりなどではありません。
さらにその研究は、単にことばの数だけでなく、ことばの質(どんな内容・種類whatのことばか? いかにhow話されたか?)の問題にも注目し分析しています。この点については、次回に述べます。お楽しみに!

 

こころの教育

逆説の子育て  トラブルがあるから子どもは成長する
~~お友だちとの関係トラブル解決策~~   (前回の続き)

乳児期から幼児期へ成育するにつれ次第に自我もめばえ、遊びも発達していきますが、おもちゃの大きい・小さいや数の多い・少ないなどの違いがわかってくると、兄弟やお友だちとのトラブルも増えて来ます。これは成長の証しでありますが、保育者・保護者の悩みも増えるもとです。性格の違いから2つのアプローチを考えてみましょう。
①おもちゃを取る、お友だちをたたく
乳幼児は物にはすべて所有者があることには考えが及ばないので、「取る」「たたく」という一番ストレートな自己表現をとります。子どもの気持ちにより添いながらも「かわりばんこ」「じゅんばんこ」「欲しいときは「貸して」だよ」などと辛抱強く呼びかけましょう。たたかれた子どもとその保護者にはただひたすら謝り許してもらいましょう。
②おもちゃを取られたり、たたかれる
やさしい性格の子にとっては、「泣く」というのも自己主張の一種です。たたく子もいるんだな、と認識し相手を否定するのではなく「たたかれて痛かったね」と共感し「いやだよ」「やめて」と言えるようこちらも辛抱強く呼びかけてみましょう。(Benesse『こどもちゃれんじぷち通信』2015年10月号・柴田愛子先生のアドヴァイス)
トラブルはチャンス!との前向きの受けとめが大切なんですね。「失敗は成功の元」「七転び八起き」などの諺もありますしね。

こころの教育

逆説の子育て 「けんか上手」になろう

「「けんかはダメ」。本当にそうでしょうか?けんかとはそもそも、自分を相手に分かってもらいたくて始まります。けんかの目的は相互理解です。つまり「けんかが上手」ということは、「腕力が強い」ということではなくて、上手に仲直りができて、子どもなりにうまく相互理解が図れるということです。」「子どものけんかは心身の発達とともに、「取っ組み合い」「けなし合い」「意地の張り合い」「口論」と進化します。要するに、使用するツールが、腕力・言葉・態度・論理と、高度になっていくのです。」「小さなころからその時その時の発達段階に応じたけんかの経験を豊富に積んだ“けんかの達人”は、相手の立場も守りながら、最終的にWinーWin(互いに得をする)の関係が築けるように話を運んでいき、ゆくゆくはビジネスの世界で会議やプレゼンという場で生きる力に結びつくのだと思います。」(教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)(岐阜新聞2014年8月1日)

避けることのできないこどものけんかも、保護者としてはほんの少し距離を置いて冷静・客観的にじっくりと観察し、必要なアドヴァイスは与えながら、自己主張・相手を説得する力・相手と折り合う工夫などを養わせる絶好の機会としたいものですね。