《子どものことばはおもしろい》

当園での子どもたちのことばです。職員室前の廊下で、年長児T君がY.君に「廊下を走ってはいけません! やり直し!」と言っているのを職員と一緒に聞いて、普段の指導の効果(?)てきめん!といった感じで、思わずお互いに苦笑いしてしまいました。
ある教育専門家が、「おじいさん・おばあさんのごく普段の口癖さえ、そのままそっくり子どものことばの教育になります。」と述べている文を読んだことがありますが、おしゃまなタイプの年少の女の子が「幼稚園で「うちのおじいさんが、「会社でもう要(い)らん。」て言われたで、今は家におるよ。」と言ったよ。」という職員の話を聞いて、絶句したり爆笑したりしたこともあります。私たちはこうした子どもたちのことばをおおらかに楽しんでいますが、他面、子どもたちは毎日乾いたスポンジが水を吸い込むように周りの大人やテレビのことばを(良いことばも悪いことばも)そのまま覚えていくのだなあ、と多少恐ろしくも感じています。

「しいたけさようなら!」 (ンッ!!??)
子どもたちの言葉遊びも発展しています。ある年長児の歌う「いちご、にんじん、さんま、しいたけ・・・♫」という数え歌をある年少児がおぼえ、さらに「しいたけ」の語が気に入ったらしく、お別れのあいさつに「しいたけ・さようなら!」と子どもたちからユーモアたっぷりに呼びかけられました。子どもたちの柔軟で独創的な発想に学びたい思いです。もちろん、下品なことば・汚いことば・人を傷つけることばなどはたしなめなければなりませんが、日々新しいことばを覚え使い、自分の気持ちや思いつき・ひらめきを一生懸命自分のことばで表現しようとして柔軟に頭を働かせようとする子どもたちの姿は、おおらかに楽しみながら温かく見守りつきあってあげたいものですね。

<子どものことばのおもしろさ・ユーモア>

新聞紙上で、とっても心が温かくなる子どもの詩に出逢いました。まずはじっくりと読んでみてください。

お父さん 小学4年 江守慶介

お父さんは、朝早く会社へ出かけて、帰りもとてもおそい。
だから、休みの日以外は、ごはんもいっしょに食べられない。
月曜日から金曜日まで、お父さんに会わなかった時もある。
土曜日になってお父さんに会うと、何だかはずかしくて話ができない。
本当にたまにだけど、お父さんの体をマッサージしてあげた時は、
とてもいい気分になりました。
それは、「ありがとう、慶君。体のつかれがとんでいったよ」
と言ってくれたからです。
がんばって、お父さん。
(岐阜新聞2015.4.21)

いかがでしょうか? 素朴な内容ですが、とっても心が温まる良い詩だと思います。幼児たちには、まだこれほどの親を思いやることばを発することはできませんが、同じ心をいつも抱いていることと思います。紙上でこの詩を紹介されている増田修治さん(白梅学園大学教授)も「親も子も、どちらも同じように相手をいたわり合って生きているのです。」とおっしゃっています。

岐阜新聞2015年6月16日に載っていた子どもの詩には、たっぷりのユーモアとお兄ちゃんの思いやりが表現されていて、私は読んで思わずうなってしまいました。こんな子どもたちに育ってほしいと願う理想の心持ちだと思いました。じっくりと子どもたちと読んでみたいものですね。

ことばを毎日学びつつある子どもたちのことばは、言い間違い・勘違い覚え・冗談・新しいことばの一つ覚え・悪口・陰口など、実にさまざまで、中には修正したり、たしなめたりする必要のあるものも多いですが、大人が思いつかない発想で思わず快笑してしまうものもあります。ともに楽しみながら、ことばの面白さを見つけてやりとりしていきたいものですね。

直観力について

これまで、「学ぶ力」を育てるというテーマでいろいろと考えてきましたが、知識の多いことだけを良いことと評価する知識偏重の教育のあり方に疑問も感じ、子どもたちの自然な感性・疑問を大切にしたいと考えていました折り、『「直観力」の豊かな子どもは幸せだ~おおらかな人生のために大切なこと~』という本を見つけて読んでみました。(ソニア・チョケット著・PHP研究所刊2000年)この本の要点は、「親子ともに真の幸せな人生を歩むには、保育者自身が自己の直観力を信じ豊かに育むことが大切です。具体的方法としては、
①身辺を整理整頓しすっきり・シンプルにする。
②深呼吸し心を落ち着ける。
③自然の中を歩く。
④家族で夕食を食べる。
⑤忙しすぎないように生活設計をする。
⑥自己の内にある自分の制御(コントロール)を超えた大いなる声に気づき、心の耳で聞く。
といったことです。これにより子どもたちを個人として認め、関心を持って温かく見守り子どもに発言(権)を与え、環境に支えられ守られ導かれている自分を見いだしホッと安らかな気持ちになれることにより、偽り・見せかけでない真の自分を発見していける、ということでした。
キリスト教の影響がある考え方のようですが、たいへん貴重な考えのように思えます。子ども・保育者ともに直観力をはぐくんでいくためには、やはり環境設定の方にもなにがしかのノウハウがあるのですね。

 

「臨界期」の問題について

さまざまな教育論の中で、「臨界期(りんかいき)」という問題が話題になることが、しばしばあります。人間の子どもたちは、乳幼児期から学童期・思春期・ハイティーンに至るまで、母国語の読み書き・聞く・話す能力、計算能力、運動能力、音楽・絵画などの芸術能力など、さまざまな能力を身につけ発達させていきますが、それぞれの能力につき、生涯通用する・もしくはプロフェッショナルレベルの能力のためのしっかりとした基礎力を身につけるために最適な時期がある、と考える発達論上の考え方が「臨界期」という考え方です。
この問題について、最近の啓発書では、発達心理学者の池田清彦氏の著書『すこしの努力で「できる子」をつくる』(講談社文庫2006)という本で論じられています。池田清彦氏は、脳科学の成果をもとに、言語能力・スポーツ能力・音楽・将棋・囲碁・計算などの能力の臨界期を示しておられますが、いずれもやはり3才ころからの豊かな養育環境が重要・大切だと指摘されています。
昔から「三つ子の魂百まで」「鉄は熱いうちに打て」「矯めるなら若木のうち」などという諺もあり、人類は、幼児期に周囲の愛情につつまれて無理なく丁寧に上質の養育・教育を受けることの大切さを見抜いてきたようです。
今は、「くもん」などの知的教育施設・学習塾・タブレット学習・ダンススクール・サッカー・野球・水泳などの習いごとが大流行(おおはやり)で、どれに通わせようか保護者の方が迷うほどありますが、あくまで子どもが「やりたい!!」と興味を示してこそ効果が期待できるもので、保護者・教育者からの強制では、まったく効果がないこと・百害あって一利ないことを肝に銘じておく必要があるでしょう。
また、多くの子どもたちには、相当の個人差・多様性もあって、すべてのこどもたちが一様に同じような興味・発達・成長・成果を見せることもありませんから、その子その子の固有の良さ・得意なこと・好きなことを尊重していく姿勢も大切でしょう。
池田清彦氏は以上のようなことを考慮し、「他の子とあまり比較せず、温かい雰囲気の中で、子が好きになったことを褒めて伸ばそう。」という割とオーソドックスな考えで結論づけています。本欄でこれまでからだ・こころ・ことばの教育を展開してきた中で、幼児教育学者・津守真(つもりまこと)氏の「日々子どもが望むことに応え、配慮をもって関わることの大切さ」という言葉を紹介しましたが、相通ずることなのですね。
「臨界期」の問題は、教育学・発達学的にはとても重要で興味深い研究テーマでもありますが、一般の家庭であまりにこだわりすぎて神経質になって不安感をつのらせるデメリットの方が大きいとも思いますので、池田氏のように、ゆったり大らかにかまえていった方がよさそうですね。

<幼児・小学生の学ぶ力を育むために心がけること・大事なこと・実践すべきこと>6

これまでは、後掲する最近の学習アドヴァイス書に書いてある内容をまとめて縷々述べてきましたが、今回は、勉強法についての、私なりの付け加え・持論といったことを述べてみたいと思います。
①学校の授業を大切にする・集中して受ける(夜に睡眠不足で昼・授業中に居眠りしていたり、「内職」している学生に、成果を上げている者はいない、とよく言われた。)
②まず、教科書を完璧にマスターする(しっかり理解する・法則を丸暗記するのではなく、その法則・理論が見出されるまでの過程を自分で説明・解説できるまで理解する)
③苦手教科・科目ができてしまったら、克服法は一つしかない! →恥を忍んで、わかるところまで立ち戻る!これしかない!!! できるヤツに(恥を忍んで)どしどし教えてもらおう!
④集中と弛緩(活動と休養)のけじめ・バランス
ある分野の勉強をやって疲れたら、別のこと・分野・ジャンルのことをやってみる。 例えば、頭を使って疲れたら、体を使う。好きな運動(スポーツ)(キャッチボール・サッカー・水泳など)でのびのびからだを動かす。
〈対立価値のバランス〉理性(ロゴス)と感情(パトス)・IQとEQ・左脳と右脳・動と静・交感神経と副交感神経・・・両端ともに大切。
⑤指導者・保護者からの押しつけ・強制は、全く効果ない。あくまでも、当人の自発的な関心が育つことが前提。

【参考書籍】
『子どもを伸ばす魔法の言葉』シャロン伴野著 コスモトゥーワン刊 1999
『小3までに育てたい 算数脳』高濱正伸著・2005・(株)健康ジャーナル社
『東大脳の作り方』安川佳美(東大・理科三類(医学部進学)に現役合格した女学生)著・平凡社新書2006
『子どもの脳にいいこと』鈴木昭平著 コスモトゥーワン 2009
『全教科の成績が良くなる 国語の力を親が伸ばす』高濱正伸著・2010・(株)カンゼン
『子どもの脳を育む!よい習慣』久保田競著 PHP 2011
『すこしの努力で「できる子」をつくる』池田清彦著 講談社文庫 2011
『へこたれない子、心のつよい子になる育て方』PHPのびのび子育て編集部・2013・(株)PHP研究所
『子どもが自分で伸びていく6つの習慣』八田哲夫著 経済界新書2013
『頭のよい子の親がしている28の習慣』苫米地英人著 だいわ文庫 2015
『自分からどんどん勉強する子になる方法』杉渕鐵良著 すばる舎 2015
『「賢い子」に育てる究極のコツ』瀧 靖之著 文響社 2016
『やってはいけない脳の習慣』川島隆太・横田普務著 青春新書 2016
『5歳までにやっておきたい本当にかしこい脳の育て方』茂木健一郎著 日本実業出版社2017
『脳に任せるかしこい子育て』菅原洋平・菅原未涼著・2018・(株)すばる舎
『こんなカンタンなことで子どもの可能性はグングン伸びる! 最新の脳医学でわかった!』瀧 靖之著 ソレイユ出版 2019
『子どもたちに大切なことを脳科学が明かしました』川島隆太・松崎泰編著 くもん出版 2022