<思いやりを育てるには 子どもに親切にする>

「非認知能力」のひとつの柱に、円滑な人間関係を結ぶ力(コミュニケーション力)というのがありましたが、相手・仲間を尊重し思いやる心が育つには、やはり幼少児期からの育つ環境の影響は大きいでしょう。

「お子さんが何かに困ったり失敗したりしたときは、「なぜできないの?」「ちゃんとしなさい!」と叱っていませんか?

他人が困っているときに、「ダメじゃないか!」「しっかりしろ!」とは言いませんよね。我が子にも同じように黙って親切にしてあげまよう。子どもは表面には出さなくても、親に深く感謝しています。親切にされてうれしかった経験があれば、自分も親切にしようと思いやるものです。」(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)氏著・ダイヤモンド社2024・207頁)

「子どもに親切にしましょう。」と言われると、類似の姿勢である「甘えさせること」「甘やかすこと」とはどう関わるのか? どう違うのか? などという疑問が出てきます。子どもをゆったりと穏やかで懐(ふところ)深い愛情で包んで見守ることの大切さは、本欄の最初の頃からずっと主テーマとして述べてきましたが、幼いときほど思いっきり甘えさせることは大切ですが、甘やかすこととははっきり違いがあります。甘やかすこととは、子どもが自分でできること・すべきこと・やりたいことも、何らかの親の都合・自分勝手な理由で親が先んじてやってしまうことです。

子が「自分でやりたい」と言ったりしたときは、一歩引いて、まちがえても、失敗しそうになっても、おおらかに見守るゆとりを持ちたいものですね。

<家庭での安心・安全>

前回の本欄で、「非認知能力」を育てるためには、子どもが自分から興味関心をもったものに没頭させることが大切だ、という話を述べました。

「親力(おやぢから)アドバイザー」は、続けて次のようにおっしゃいます。

「そしてさらに大事なのは、そのような体験をさせる以前に、お子さんが毎日安心・安全な家庭環境で過ごせているかどうかということです。例えば、ご両親が激しい喧嘩ばかりしている家庭では、子どもは安心・安全を感じられません。なぜなら子どもというのは誰かに育ててもらわないと生きられないので、ご両親の仲のよさは、自分の生活や、ひいては命に直結するからです。そのような不安な状況に置かれていたら、非認知能力をのびのびと伸ばしていくことは難しいと言わざるを得ません。

心安らぐ環境があってはじめて、子どもは安心して自分の興味関心に従って行動することができます。子どもを伸ばそうとする前に、家庭が子どもにとって安心・安全な環境になっているか、振り返ってみてはいかがでしょう?」(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)氏著・ダイヤモンド社・2024)

まったくその通りですよね。私自身も、幼少のころ両親が何かの問題で言い争いになっていた時に、とても不安で嫌な気持ちになった記憶があります。ごくごくたまにあった、くらいの経験なので、ネガティブな人生観・社会観・家庭観を持つまでにはなりませんでしたが、こうした不安な経験は無いかできるだけ少ないに越したことはありませんよね。

もっとも、夫婦といえどもそれぞれ好みも考え方も感性も違った別々の人格なので、共同生活を長く続けていって「鴛鴦(おしどり)夫婦」になっていくためには、学び合い・尊重・尊敬し合い・協力し合いが必要ですよね。

<非認知能力を幼児期・児童期に育てるには?>

子どもたちが将来青年・成人となり社会の中で然るべき位置について働いていくために、意欲や意志、社会性・協力性、自分の頭で考え発想・決定する力・創造性・オリジナリティなどの「非認知能力」が大切なことは分かりますが、幼少期からどのように子どもを見つめ、接し、はたらきかけていったら良いでしょうか?

いくつかの最近の関連の専門書にあたってみると、まずは皆さん口をそろえて、次のように述べられます。

「子どもが好きなことを思う存分させる」「夢中になること・没頭できるものを見つけ、トコトン熱中させること」が大切です、と。(『ずるい子育て』親野智可等(おやのちから)著・ダイヤモンド社2024)

また、教育方法論の専門家・中山芳一氏は、「内田伸子氏を中心としたお茶の水女子大学チームの研究(2014)に、20代の社会人の子どもを持つ保護者1000人以上を対象とした興味深い調査があります。我が子が幼児期の頃に「思いっきり遊ばせてきた」「遊びでは自発性を大切にしてきた」「好きなことに集中して取り組ませた」と回答した保護者の方が、子どもを(認知能力の高さが求められる)難関大学へ合格(偏差値68以上)させている率が明らかに高くなっているのです。」「社会情動的スキル(非認知能力のことです)は認知的スキル(認知能力)との間に相互作用的な関係がある」と述べています。(『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』東京書籍2018)

親の夢・希望・価値観を決して一方的に押しつけず、子どもの興味・自発性を尊重することも大切のようですね。

<「非認知能力(ひにんちのうりょく)」ってどんな能力?>

教育の仕事にたずさわっていると、昭和期や平成の前半期まではあまり聞かなかった「非認知能力の重要さ」「アクティブ・ラーニング」といった話題・問題を最近よく耳にするようになりました。これから、この「非認知能力」について、文部科学省や教育専門家の解説を読み解きながら、理解を深めていきたいと思います。

 

【非認知能力の定義】

非認知能力とは、「意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力といった、測定できない個人の特性による能力のこと全般」で、「学力(認知能力)・教科のテストやIQテストで測られる能力」と対照的な意味で使われます。

 

【非認知能力が注目されるようになった理由・背景】

長期にわたり多数の人々の成育歴と成人後の職歴などを調査し、その研究発表により2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームス・ヘックマンの主張によると、乳幼児期に、愛情深く丁寧で豊富な教育・保育環境で育った人と、そうでない粗雑・粗悪な成育環境で成人した人の間には、生涯収入や社会的業績などにおいて明確な格差が見られた、とのことです。このことに世界中の教育・国家経済の関係者・専門家が注目した、ということです。

 

しかし、文部科学省で定義された説明を読んでも、抽象的で広汎な意義を含むため、具体的な教育・子育てにどう生かせばいいか、つかみにくい印象を持ちますよね。

そこで、さらに教育実践をふまえて教育・保育の論理の構築をめざしている専門家・汐見稔幸さんや大豆生田啓友さん、無藤隆さんらの解説を読んで、私なりに整理し平易にかみ砕いて述べてみましょう。

 

「定義」の8項目をじっくり考えてみると、4つほどにまとめられる気がします。

  • 意欲(自分の興味・関心を持ったことに継続的に熱く集中・探求・思索する気持ち・姿勢)
  • 協調性・コミュニケーション能力(良好な・協力的な・深い人間関係を築く能力)
  • 粘り強さ・忍耐力・計画性・自制心(自分が抱いた夢・目標の実現のため、自分ができそうな計画を立て、他に目をそらさず、粘り強く取り組む力・姿勢)
  • 創造性(他の模倣ではなく、あくまで自分の目標・夢を、他人の評価を気にせずつらぬく)

 

特に幼児期に大切なことは、本ブログ連載の当初のころにも縷々述べていますが、幼児が自分で見つけた夢中になれることを、周囲が温かく見守り、「見て見て!こんなのできたよ!」などの自慢話を、「そうかね、よくがんばったね」と認めてほめてあげる(良好な対話)周囲の大人がいること、子どもにとって「遊び」は「学び」、と理解してあげることです。

(出典:ネット「非認知能力とは?文部科学省での位置づけについて」)

 

<「図鑑、虫取り網、楽器」は脳を育てる3種の神器>

脳医学者・瀧靖之(たきやすゆき)氏は、幼少期に自然体験をたっぷりさせることで、知的好奇心を伸ばし、知力・学力・思考力を伸ばしていく素地となる、と主張されます。

「私はよく、子どもの脳をすこやかに育てるためにおすすめのものとして「図鑑、虫取り網、楽器」の3つが最強と話します。

知識の象徴が図鑑、自然体験のアイコンが虫取り網、そして美しいものに触れるための楽器です。虫取り網の代わりに天体望遠鏡にしてもいいし、楽器を絵筆に替えてもいい。図鑑は本で興味の種まきをし、実際の自然体験や芸術文化体験で好奇心を自由に羽ばたかせる。知識と体験をつなげていくことが、知的好奇心をぐんぐん伸ばすポイントです。」(『プレジデントFamily』2024夏号・P36~37)

小学校の理科教材で、「てこの原理」というのを、5~6年生で習うようですが、実際に野原で、棒で大きな石をてこで動かそうとした経験のない人は、てこそのものを身近に感じ原理を体感で納得することはないのではないでしょうか。

ここまで書いて、私自身は小学生高学年の頃に、少年少女向けの図鑑(『学習百科大事典・第16巻・機械とそのはたらき』を読みふけっていて、そのころ興味関心を持っていた蒸気機関車のピストン運動のしくみを見つけて、「へえ~~~~!!?? すげえ~~~~!!! よくこんなメカニズムを思いつくものだなあ~~~!!」と驚き・感心したことを思い出しました。(下の図) 石炭で湯を沸かし勢いよく出る蒸気は一方通行なのに、それを利用し円滑なピストン運動にみごとに変換するしくみに、驚嘆したのでした。その後興味が高じて、空き缶で「ミニSL」を作ろうとしましたが、みごとに失敗・挫折したのでした。