本欄の前回までの数回は、乳幼児期での保護者・保育者のちょっとした日々の心がけ(声かけ)の違いだけで生涯にわたる精神的成長に大きな差が生まれる、という研究報告でしたが、外山(とやま)滋比古(しげひこ)文学博士も同様の主張をされています。
「耳で賢くなる方のしつけ・教育は、今の日本ではほとんどなされていなくて、視覚の文字を中心にした記憶によって知能を発達させようとしてきたが、視聴覚の双方で知覚を高めていけば、知的能力だけでなく、情操的にもすぐれた能力の子どもが育つ。賢いことを「聡明(そうめい)」というが、「聡」つまり耳の賢さが「明」つまり目の賢さより先行している。昔の人の知恵である。」「文字を知らない幼児期にこそ、聞く力を育てる好機である。大人がまずそう自覚する必要がある。」(『幼児教育でいちばん大切なこと 聞く力を育てる』外山(とやま)滋比古(しげひこ)著・筑摩書房2012・P178~179)(英文学者・文学博士・お茶の水女子大学名誉教授・元同大学附属幼稚園長)
このための具体的な方法は、それほど奇抜・難解なことではありません。テレビ・スマホ・パソコン・タブレットの画面・音声からいったんはなれ、「ゆっくり、くりかえし、はっきり話す」ゆったりとした「抑揚をつけてはなす」「なるべくほほえみをたたえて話しかける」(P33~34)「とりとめのないおしゃべりは、おそらく人間にとってもっとも楽しいことの一つであろう。」(P56)ともおっしゃっています。