適切な睡眠の大切さ

前回は、睡眠が子どもの発育・成長にとってとても大切であることの基本原則を確認しました。今回からは、家庭での睡眠についてよく話題にされる具体的な疑問・問題をいくつか考えていきましょう。
人の生活・健康にとって基本的に大切な、食事・運動・排泄(快便)・疲れの回復・機嫌(明朗・感情の安定)・学習や仕事(作業)などは、すべて睡眠が良好かどうかと密接に関連しているので、生活・健康上のどこかに内科的な支障・異常が感じられたなら、よく眠れているかどうかを、一度振り返ってみましょう。

睡眠の知識:「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」
睡眠中の脳波・眼球の動き・睡眠の深さ(起きやすさ・起きにくさ)などを生理学的に詳しく研究した結果、睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という2種類の睡眠状態があることが分かっています。レム睡眠では、脳が活発に働いており、学習・体験・仕事などの記憶の整理や定着が行われています。レム睡眠中は目がぴくぴく活発に動くRapid Eye Movement(急速眼球運動)があることからREM(レム)睡眠と呼ばれています。一方、REMのないノンレム(non-REM)睡眠では、大脳は休息していると考えられ、脳や肉体の疲労回復・成長ホルモンの大量の分泌(骨や筋肉をつくる・免疫力の向上・がん予防・肥満防止など)のために重要だとされており、正常な睡眠では寝入ってから30分ほどでノンレム睡眠が始まり、レム睡眠へ移り、またノンレム睡眠が始まるまでの一サイクルは、大人ではだいたい90分なので、起きやすいレム睡眠で起床できるために、4~5回のサイクルを経て6時間~7時間半で起きるのが望ましいと言われています。大人の理想的な睡眠時間は個人差もありますし、子どもでは、大人と違ってノンレム睡眠とレム睡眠のリズムが定まっておらず、効率よく繰り返せないため、多めの睡眠時間が必要になります。(『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』成田奈緒子・上岡勇二著・SHC産業編集センター・2019・p48~52)
子育て中の家族のよくある悩みで、寝かしつけに苦労している、という課題があります。次回の本欄で考えてみましょう。

睡眠・食事・排泄・運動の良い循環を!

健康・病気予防のためには、①睡眠②食事③排泄④運動の適切な循環が必要です。この4本の柱は、密接に関係していて、どれが欠けても健康を害しますし、どれが一番大事、などという優先順位もありません。ごく簡明なことばで表現すると、「動ー静ー動ー静・・・のリズム・バランス」と言えると思います。心身ともにハイテンションで活発に動いた後は、疲れを十分に休め、バランス良い栄養を適度に補給し、心地よい排泄をもたらす、という循環・生活習慣は、連結列車のようにガッチリとつながっています。これは、大人も子どもも同じ構造だと思います。

さらに、個別の問題を細かく見ていきましょう。
①睡眠について
乳幼児に必要な睡眠時間は一日の合計で、0~3ヶ月の赤ちゃんは14~17時間、4~11ヶ月は12~15時間(WHOの推奨(すいしょう)は12~16時間)、1~2歳は11~14時間(これまですべて昼寝を含む)、3~5才で11~13時間、と言われています。現代日本の大人社会は夜型の傾向が強いので、その影響を受けて子どもたちも夜型になりがちで、かなり以前から大人も子どもも睡眠不足が指摘され専門家から警鐘(けいしょう)を鳴らされています。幼児の子どもたちは、やはり夜8時~8時30分ころには就寝する習慣をつけましょう。睡眠中には成長ホルモンが分泌され成長・発達に寄与しています。昔から「寝る子は育つ」という諺(ことわざ)もあり、すやすや寝る子はすくすく育ちますし、無邪気・平和な寝顔ほど大人・親・祖父母等の家族を癒やし元気づけてくれるものはありませんよね。

子どものからだ育て

これまで本欄では、子どもへの向き合い方・子どもの観方・味わい方・楽しみ方・などについて、さまざまな先輩・専門家・有識者などの考えを紹介し学びながら、子どもも大人・保育者もともに心豊かに育つ歩みを考えてきました。これからは、ひかり幼稚園の教育方針の柱である「からだ育て・こころ育て・ことば育て」の3本柱を、こまかに順を追ってできるだけ具体的な話題を提供しながら、一緒に考えていきたいと思います。

まず、「からだ育て」です。「からだ育て」の問題を考える場合に、ごく基本的な柱が2つほどあります。
①私たちの生活上の健康の基本として、食事・排泄・運動・睡眠(休養)などは、それぞれ別々なものでなく、すべて有機的に密接に関係しているので、どれも無視することなく適切にバランス良く気をつけていかなければならない、ということです。
②次に、からだとこころは、同じように有機的に密接に関係しているので、家庭や仕事(幼稚園・学校・地域社会)での良好・心豊かな生活とからだの健康は、やはりそれぞれ別物ではなく、バランス良く留意して生活していく必要がある、ということです。昔から「病は気から」という諺(ことわざ)がありますが、今も今後もずっと有効な考え方だと思います。大人でもストレスの多い生活を送っていると胃潰瘍や自律神経失調症になった、などという話はよく聞きますよね。

次回から、食事・睡眠など個別の問題の基本を順に述べていきたいと思います。

「みんなちがって、みんないい」「ナンバーワンより、オンリーワン」

コロナ禍の厳戒態勢の中、東京パラリンピックも無事に全種目を終えることができ、9月5日に閉幕しました。

手や足を事故や病気でなくしたり先天的に機能しなかったりなどの身体的障がい、あるいは視覚・聴覚や精神的な障がいなど、さまざまなハンディキャップを背負いながらも、私たちの想像を絶する強い夢・志をもちすさまじい努力を積み重ね、周囲の人たちの支えも得られ、それぞれの部門・競技でのトップクラスに登りつめることができた姿に、また大きな感動をもらった方々も多いのではないでしょうか。

選手たちのことばには、とことんやり尽くしたという達成感からの真実の心がしみ込んでいて、私たちを感動させます。そのいくつかを記してみます。

➀「できることがどんどん増えていくのが楽しい。」

➁「努力は人をうらぎらない。」

➂ある解説者の言「あの選手は、(自分の中に)リミッターlimiterをつくらないんですよね。それであれだけ伸びたんだと思います。」(limiter:制限装置)

選手が順位の結果にとらわれすぎないで、自己のベストをつくした達成感にあふれ、すがすがしい笑顔でインタヴューに応じていたり、40代・50代の選手が入賞・優勝したりする姿を観ると、それぞれの夢に向かって自分のよさを伸ばすため努力を尽くせば、素質や年齢に関係なく偉業を達成できるのだなあ、と改めて学ばせてもらえます。

仏教詩人・金子みすゞさんの「みんなちがって、みんないい。」の広く深い真意がまた、生き生きと伝わってきました。

子どもたちの自尊感情(自信感)を育てる

少し前ですが、岐阜新聞の教育記事で「子どもたちの自尊感情(自信感)を育てる」という文章がありました。(2012年8月13日NPO法人「フリースペースたまりば」理事長・西野博之氏筆)

「子どもたちの生活・活動には多くの失敗がつきものであり、安心して失敗できる環境をつくることが大切である。子どもは丸ごと受け止められているという安心感を持った途端に元気になる。」「不登校やひきこもりの青少年に対して、親がやっきになって何とか学校や社会に出させようとこだわっている間は動こうとしなかったが、親が「まあ生きてくれたらいいか。」とあきらめた途端、自分から動きだすことがよくある」ようです。「無事で生まれて!」と願った「あの日」の気持ちを思い出し、「あなたがいてくれるだけで嬉しいよ。」というシグナルを子どもたちに伝えて欲しい。」とのことでした。
子育ては決して理屈(りくつ)ではなく優(すぐ)れて人間的なもののようですね。