子どもを読書好きにするには? ~~自由に本を選ばせて~~

子どもたちには絵本を与えることから始まって、ゆくゆくは活字の多い本を好きになって欲しいと願うものですが、親の無理強いでも子どもは本を好きになってはくれませんよね。児童文学評論家・赤木かん子さんは、「子どもはもともと本が好き。大人が本を嫌いにさせてしまうんです。」「子どもが喜ぶ本のどこがいけないのでしょうか。アンパンマンでも戦隊ものでもいい。まず書店に行って、子どもに好きな本を選ばせて、親は文句を言ってはいけません。それが出発点です。」とおっしゃいます。絵や写真・漫画入りの本「リアル系」も、活字ばかりの「空想系」もどちらにも偏重しないことが良いそうです。「書店で子どもが買えるならば、問題のある本というのはないのですから。」「大人は子どもに広く選択肢を与え自由に読書をさせる」のが、「本好き」を育てる基本のようです。
(岐阜新聞2014年10月3日記事)

教育の専門家が著書で紹介する子ども向けの本の選び方には、5種類ほどの方法があります。
①自分(親)の想い出の本・子にすすめたい本
②地域・地元の公立図書館・公民館・コミセンなどに置かれている「幼児向け」コーナーの本
③書店の幼児書コーナーで子どもに選ばせる
④すでに「定評」のある(絵)本・PTA新聞などで紹介されている本
⑤幼稚園(の先生)に聞いてみる

いずれにしても、親子一緒に楽しむこと、またさらに子どもがどういうところにどのように面白がっているか・感動しているか、その子ならではの特徴・個性を記録していき、育児日誌までできると良いですよね。長じて後、絶好の想い出や子への贈り物になりますよ。

<教育の名言>

母の日にちなみ2021年5月9日の岐阜新聞コラム「分水嶺」に次の文が載っていました。「ドイツの文豪ゲーテの母カタリーナは、幼少のゲーテが眠りにつく前に物語をよく読み聞かせたという。話が盛り上がってくると、いつも決まってこう言った。「続きはまた明日」▼どんなラストが待っているのか。翌日にお預けされたことで幼いゲーテはさまざまな想像を巡らせたことだろう。世界的な文豪の発想力を育んだ母も偉大である」
「この親にしてこの子あり」とよく言いますが、絶好・絶妙の子育て法ですよね。想像(力)を働かせることには老少問わず良い面(プラス面)もあれば悪い面(マイナス面)もあります。事故・リスク防止のためのK・Y・T(危険予知トレーニング)も大切ですが、心配性になりすぎないよう、楽しく楽観的に想像力をはたらかせましょう。

《教育の名言「耳で賢くなる」》

本欄の前回までの数回は、乳幼児期での保護者・保育者のちょっとした日々の心がけ(声かけ)の違いだけで生涯にわたる精神的成長に大きな差が生まれる、という研究報告でしたが、外山(とやま)滋比古(しげひこ)文学博士も同様の主張をされています。

「耳で賢くなる方のしつけ・教育は、今の日本ではほとんどなされていなくて、視覚の文字を中心にした記憶によって知能を発達させようとしてきたが、視聴覚の双方で知覚を高めていけば、知的能力だけでなく、情操的にもすぐれた能力の子どもが育つ。賢いことを「聡明(そうめい)」というが、「聡」つまり耳の賢さが「明」つまり目の賢さより先行している。昔の人の知恵である。」「文字を知らない幼児期にこそ、聞く力を育てる好機である。大人がまずそう自覚する必要がある。」(『幼児教育でいちばん大切なこと 聞く力を育てる』外山(とやま)滋比古(しげひこ)著・筑摩書房2012・P178~179)(英文学者・文学博士・お茶の水女子大学名誉教授・元同大学附属幼稚園長)
このための具体的な方法は、それほど奇抜・難解なことではありません。テレビ・スマホ・パソコン・タブレットの画面・音声からいったんはなれ、「ゆっくり、くりかえし、はっきり話す」ゆったりとした「抑揚をつけてはなす」「なるべくほほえみをたたえて話しかける」(P33~34)「とりとめのないおしゃべりは、おそらく人間にとってもっとも楽しいことの一つであろう。」(P56)ともおっしゃっています。

【教育の名言】3つの“T”

『3000万語の格差 ~赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ~』の著者ダナ・サスキンド教授は、さらに詳しく具体的に声かけ方法のアドヴァイスをしてくださいます。
①Tune in チューン・イン(ラジオ・楽器などの波長を合わせる、の意):子どもの関心に関心を向けること
「乳児や幼児が集中・注意しているもの・ことに保護者・保育者が気づき・ついていき、子どもの働きかけに対して豊かで思いやりのこもった反応を返す・一緒に話す」ことです。いわゆる「赤ちゃん言葉も、赤ちゃんの耳に受け取られやすくする」きっかけとなりやすいという意味で、大人の正しい母国語とバランスよく使われれば大いに歓迎すべき言葉だそうです。
②Talk moreトーク・モア(子どもと話す言葉を増やす)
①とも深く関連しますが、子ども「に」話す言葉ではありません。衣食住の生活をしながら、
「ナレーションをする」(例「さあ、おむつを替えようか。この青いおむつ、かわいいね~。」)
「並行トークをする」(「○○ちゃんは、今○○をしているんだね~。うまくできるかな~?」)
「ふくらませ、伸ばし、足場をつくる」(「抱っこ!抱っこ!」に対し「お父さんに抱っこしてほしいの?」と返す。)
などの話をできるだけ多く聞かせながら生活することで、どんどん子どもは自分の中に言葉を蓄積させていきます。
③Take Turnsテイク・ターンズ(交替する)
①②をしながら、「何?」「なぜ?」「どうする?」「どうやって?」などの「答えが決まっていない質問」(「自由に答えられる質問」「開かれた質問」)の投げかけによって、子どもは自分なりの答え・対策を一生懸命に考え「こうしたい!」と自分の希望を発声するでしょう。質問・自由な返答・対話と進んで、お互いに疑問・返答・さらなる返答・提案と、どんどん活発・積極的な対話が続いていくことでしょう。(前掲書・129頁~144頁)

【教育の名言】雑談はボディ・ランゲージも大切に!

前回までの本欄で、乳幼児期の子どもと人間味豊かなことばをより多くやりとりすることが、子どもの知能発達をより育む、という研究結果を述べましたが、ことばのやりとりに劣らず、身体全体でコミュニケーションすることの大切さも感じていました。最近の新聞記事ではっとそのことを思い出させたものがありました。浜野ちひろさんは若いころ恋人にDVを受けたことで研究の道に進み、研究テーマとして動物性愛者(ズー)と接し彼らを観察するうちに、「顔色を読むとか目線のやりとりとか、人間同士の関係でも言葉だけに頼らない方が良いのではないでしょうか」(岐阜新聞2020年1月5日・新著『聖なるズー』浜野ちひろ著の紹介)とおっしゃっています。
以前の本欄でも書きましたが、仏教では、愛情表現・意志疎通の大切な方法として、
①心施(しんせ)(他者や他の存在に対する思いやりの心)
②身施(しんせ)(身体を動かして他者に尽くす行為)
③眼施(げんせ)(優しいまなざし)
④言施(ごんせ)(思いやりのこもったあたたかい言葉をかける)
⑤和顔施(わげんせ)(柔和(にゆうわ)な笑顔)
⑥牀座施(しようざせ)(電車などで自分の席をゆずる)
⑦房舎施(ぼうしやせ)(わが家を一夜の宿に貸す) (「無財(むざい)の七施(しちせ)」)
と説かれています。
この中で②③⑤⑥は、いわゆる「ボディ・ランゲージ」「表情」「顔つき」「無言の圧力」「目は口ほどにものを言う」「スキンシップ」といったコミュニケーションですね。メールより、直接会って話した方が、気持ち・微妙なニュアンス・真意・本意がより深く正確に伝わるということがありますよね。