前回までの本欄で、10回ほど乳幼児のこころ育てに関わる代表的・典型的な課題について、対応策の基本的な方向性を探ってきました。前にも述べたとおり、こころ(情動性・感受性・意志)の育成の問題は、知性(ことばの獲得・考える力・探究心)と決して別ものではなく、生活環境の中で社会的な影響を受けながら同時進行的に育っていく、と考えた方がいいと思います。今回からは、生涯続いて発達・学習を進めていくことになる「ことば」の習得・発達(広い意味での知性の発達)について考えてみましょう。
【教育の名言】楽しい雑談が子どもの知能を育む ~「3000万語の格差」研究~
3年ほど前に私は大変衝撃的な教育研究書に出会いました。それは、アメリカで二人の教育研究者(トッド・リズリー氏とベティ・ハート氏)が、多様な社会経済レベル(家族の学歴・職業・収入など)の42家族の子どもの身辺を、生後3年間実に詳細・誠実に追跡観察し(1982年ころから)、さらに3年間かけてそのデータを精力的に分析し分かったことの報告書です。その要点を述べますと、3~4年間に、低階層の子どもたちと高階層の子どもたちがそれぞれの家族や保育者から聞いたことばの数の差が、総計3000万語あったということが分かり、この影響でその後の子どもの学ぶ能力とその成果に大きな差ができてくることも判明したそうです。(『3000万語の格差 ~赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ~』ダナ・サスキンド著・掛札逸美訳・明石書店・2018・P34~43)
3年(ほど)で3000万語ということは、ざっと計算すると一日で3万語、1時間で約700語となり(1日で起きている時間を14時間と考えました)、あらためて驚かされる数字ですが、この研究は決してでっちあげやはったりなどではありません。
さらにその研究は、単にことばの数だけでなく、ことばの質(どんな内容・種類whatのことばか? いかにhow話されたか?)の問題にも注目し分析しています。この点については、次回に述べます。お楽しみに!